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メタモるプロの三姉妹 第一話「ダチョウ」

2023/06/03


大学四年生の芽衣(めい)、高校三年生の樹希(たつき)、中学二年生の萌絵(もえ)は、普段はごく普通の女の子。ある日突然、萌絵は姉の仕事のお手伝いをしてほしいと、姉たちにスタジオに連れてこられる。そこでいきなり、樹希がダチョウに変身!? しかも、萌絵まで変身することに!?

不思議な仕事に挑む、不思議な三姉妹の物語が今、幕が上がる!

 世の中には自分の知らない仕事が沢山存在する。そのことをぼんやりを意識し始めたのは小学五年生くらいの頃だったと思う。私には少し年が離れた姉が二人いて、上の姉が丁度その頃、高校に通いながら何かの仕事を始めたのを知った。その何かが何なのかは、守秘義務があるとかで当時教えてもらうことが出来ず、家族にも言えない仕事ってあるんだなと、何となく意識するようになっていた。

 それからしばらくして、下の姉もお手伝いとしてその仕事に関わるようになったらしく、度々二人揃って家を空けることがあった。私たち三姉妹は、年が離れている割には仲が良いつもりだったので、その輪の中に入っていけないことは、まだ小学生だった私に手伝えることはないと頭で分かっていても、ちょっとした疎外感を感じたりしていた。

 だから、中学二年生になった春休みのある日、上の姉から切り出された話に私が興味を持たなかったといえば、嘘になる。むしろ、強い興味をひかれた。

「私の仕事の手伝いを、萌絵(もえ)ちゃんにもしてもらうかなって思って」

「芽衣(めい)ちゃんの仕事? 私でも出来る仕事なの? それ」

 私の返事を聞いて、上の姉である萌絵ちゃんが、事情を話してくれた。

「ほら、樹希(たつき)ちゃんが手伝ってくれるようになったのって、中学三年生になるちょっと前くらいだったでしょ? 萌絵ちゃんももう中学二年生だし、そろそろ大丈夫かなって思って」

 私は下の姉である樹希ちゃんの方を見た。樹希ちゃんは小さく頷いた後、言葉を切り出した。

「私も高三で、来年受験じゃん? 今までみたいに姉さんの手伝い出来ないからさ。代わりって言っちゃあ言葉悪いかもしれないけど、興味あるなら手伝ってあげてほしいなとは思うよ」

「いや、私に出来るなら、全然手伝うよって思うけど、けど、内容聞かないことには……」

 仕事の内容は、この時に至るまで結局聞けてないから、二人が今までどんな仕事をしてきたのか知らなかった。時たま飛び交う言葉で、何となくテレビ業界か何かっぽい雰囲気は感じるんだけど。

「勿論、練習は必要だけど、萌絵ちゃんならすぐ出来るようになる仕事だし、むしろ私たちじゃないと、なかなか難しい仕事なんだよね」

「……私たち、じゃないと?」

「そう、説明は難しいんだけど……」

「別に、手伝ってもらうならもうさ、話して見せちゃってもいいんじゃない? 実際に」

 樹希ちゃんのその言葉に、芽衣ちゃんは少し悩んだそぶりを見せた後、「それもそうかもね」と言って私の方を見て、ニコッと笑った。私も釣られて、愛想笑いをつい浮かべる。

「じゃあ、さ。今から行っちゃおうっか。スタジオ」

「……スタジオ?」

「スタジオ。私たちのスタジオ」

「私、たちの?」

 戸惑う私は、二人に強引に連れ出され、芽衣ちゃんの運転する車で家から二十分ほど。着いたのは都心からちょっとだけ外れた街の雑居ビル。の四階。の奥の部屋。ちょっと広い、全面鏡張りの部屋。アイドルとかがダンスの練習をするのに使っているような、練習スタジオだった。

「これ、これって、これ……」

「私たちのスタジオ」

「私たち、の?」

「私たちのスタジオ」

 何度聞いても「私たちの」って言ってるなぁ。借りてるにしたって、スタジオを大学生と高校生の女の子二人でまるっと借りてるのって、結構すごいことだと思うんだけど。

 でも、こんなスタジオをわざわざ持ってるってことは、やっぱりテレビ業界か何かなんだろうか? ダンサー? 演技? でも、そんなのお手伝いって言われてすぐ出来るような仕事じゃないだろうし。

「一応、事務所も兼ねててね。局とか、この辺大きなスタジオ多いから、結構私たちみたいな小さなプロダクション多いんだよね」

「プロダクション? やっぱりなんか芸能関係の仕事なの?」

「芸能っちゃあ芸能だけど、多分、芸能のイメージからはだいぶ遠いかなぁ」

 芽衣ちゃんは、なんだかもったいぶったような、まどろっこしい言い方をするなぁ。

「テレビとか舞台とかの仕事ではあるんだけど、結構特殊な仕事なんだよ。姉さんのやってることは」

 樹希ちゃんがそう言って事務所スペースから何か資料を持ってきて、私に手渡してきた。

「変演専門、川里(かわさと)プロダクション……?」

 川里というのは、私たちの名字だ。やっぱり、私たちのプロダクションっていうのは本当に、芽衣ちゃんがやってる芸能事務所らしい。気になるのはやっぱり変演という見慣れない言葉だ。

「テレビとか映画でさ、スタッフロール流れたりするじゃん? あそこにちゃんと『動物変演 川里 芽衣』って名前出てたりするよ」

「待って、変演って何? 聞いたことないんだけど」

「まぁ、知名度ほぼないよね。スポット当たらない仕事だし、話せること少ない仕事だし」

 芽衣ちゃんと私がそんな会話をしている間、樹希ちゃんはせっせと何かの準備を進めていた。こう、裏方の動きが身についてるって感じがする。今まで樹希ちゃんのこういう姿を見たことなかったから、結構意外だし、何ならちょっと面食らってるくらいだった。

「例えば、映画に動物出したい時って、普通は本物の動物使うけど、例えば本当の動物には難しい演技だったり、動物にストレスを感じさせてしまうような場面だったり、そういう時ってCGとかロボットとか代わりに使ったりするわけだけど、でもいまだにCGもロボットも、作るのも借りるのも、すごいお金がかかるわけね。だから、ちょい役とかの時に、わざわざCGやロボット手配するだけの予算がない企画も少なくないんだよね。そこで、私たちの出番ってわけ」

 てわけ、って言われても、全く要領を得ない。CGや、ロボじゃなく、私たちが、動物の何の演技が出来るっていうんだろう。

「意外だろ、姉さん、こういう説明下手なんだよ」

 進めていた準備をいつの間にか終えた樹希ちゃんが、苦笑いで話しかけてきた。確かに、意外ではある。文武両道で、仕事もこなしてる芽衣ちゃんのイメージからは、ちょっと想像出来なかった姿だ。

「変演っていうのは、『変身演技』が略されてそう呼ばれるようになったんだ。文字通り変身して、本物の動物や着ぐるみ、特殊メイクには難しいことで、CGやロボットを使うまででもないようなことを演じる仕事だよ」

「変身……変身?」

「今、見せてあげるよ。次の仕事、ダチョウだからね。手本も兼ねて」

 樹希ちゃんはそう言って、いつの間にか用意してた簡易ベッドに腰を下ろして、深い深い深呼吸をした。

「ん、んん……」

 はじめは小さくうなっているだけで、何をしているのかよく分からなかったし、実際しばらくの間は、何も起きてないように見えた。けど、実は小さな変化がずっと起きていたようで、ふと気づいた時、樹希ちゃんの足に異変が起きていた。

「え、樹希ちゃん、それ……どうなってるの……!?」

 いつの間にか、樹希ちゃんの足の形は大きく変化していた。指が二本しかなくなっていて、そのうち一つが太く大きくなっていて、その指先からは黒く鋭い爪が生えていた。

「これがダチョウの足。樹希ちゃんは、今ダチョウに変身してるの」

「変身って、本当に、人間が……樹希ちゃんがダチョウに……!?」

 私が驚いている間にも、樹希ちゃんの変化はどんどん進んでいく。スポーツをやってて、女の子としてはちょっとがっしりしている樹希ちゃんの脚は細く、だけど筋肉質な感じはそのままでがっしりとしたものへと変化していき、柔らかな肌は徐々に硬い鱗に変化していく。脚だけ見れば、それはもう完全に鳥そのものだった。ここだけ写された写真を渡されても、それが実は人間だったなんて想像するのは難しそうだ。

「ダチョウは、人間と体の構造だいぶ違うからね、慣れが必要なんだよね」

 樹希ちゃんの変身を見ながら、芽衣ちゃんは落ち着いた様子でそう語る。落ち着いてるということは、当然見慣れているということだと思うけど、私は初めて見る光景に全然落ち着くことが出来なかった。

 樹希ちゃんの体はというと、変化はさらに進み、体や腕を黒くて柔らかな羽毛が覆っていく。腕や手も形は変わってるみたいだけど、その羽毛に覆われて皮膚は見えなくなり、翼へと変化していった。

 そしてついに、その変化は頭にも訪れた。樹希ちゃんの首がみるみる細く、そして長く伸びていき、頭も小さくなっていく。樹希ちゃんのかっこいい顔がぐにゃりと歪み、口先は平べったいくちばしへと変わっていく。首や顔を短い毛が覆っていき、目がぎょろりと開く。すると、樹希ちゃん……だったその鳥は、ベッドから降りると自分の体を馴染ませるように軽く震わせて、そして凛と構えて私を見下ろした。

「樹希ちゃんもすっかり慣れたね。誰が見ても、完全なダチョウだよ」

 芽衣ちゃんの言葉を、私は呆気にとられながら、目の前の鳥を見上げながら聞いていた。

 ダチョウ。地上最大の鳥。地上最速の鳥。動物園でしか見たことないその鳥が、今目の前にいる。しかもそれが、ついさっきまで自分の姉だったという事実を、私はまだうまく呑み込めてなかった。

「樹希ちゃん、なんだよね?」

「実際今変身を見たでしょ?」

「見た、見たけど、けどでも、ダチョウ、ダチョウって」

「ちなみにこのダチョウ、オスね」

「えっ」

「羽毛が黒くて、体長がここまで大きいのは、オスだからね」

「えっ」

 私は、戸惑いながらダチョウの顔を見る。……どう見てもただのダチョウで、樹希ちゃんの面影なんて全くないはずだけど、長いまつげと、凛々しい顔立ちと、なのにどこか恥ずかしそうにしているその様子から、何となく樹希ちゃんだって分かるのが不思議だ。でも、人間の女の子が、オスのダチョウになるなんて、そんなこと、実際に見てもすぐには信じられない。

「ちなみに今から、萌絵ちゃんにもなってもらうからね」

「えっ」

 私は慌てて芽衣ちゃんの顔を見る。微笑みながら静かに頷く。

「えっ」

 私は慌ててダチョウの顔を見る。長い首で深く頷く。

 えっ、私も、ダチョウになる? オスの、ダチョウに……!?

「え~~~!?」

「はい、じゃあそこに座ってね」

 驚きと戸惑いで混乱している私を、芽衣ちゃんは強引にベッドに座らせる。

「ま、待って私、変身とか出来ない、やったことないし、オスの、オスのダチョウって」

「大丈夫、今回は私がちゃんと変身させてあげるし、見た目がオスのダチョウになるだけだから、何も恥ずかしがることじゃないよ」

 何が大丈夫なのか分からない。心の準備が、まだ、出来てないのに。

「大丈夫。私の目を見て。深く、深呼吸をして」

 芽衣ちゃんは両手で私の肩を掴んで、じっと私の目を見つめてそう言った。言われるがまま深呼吸をしているうちに、なんだか不思議と、気持ちが落ち着くような気がしてきた。

 いや、変な感じだ。落ち着いてるわけじゃない。すべてのことに戸惑っている、気持ちのふわつきはずっとあるのに、芽衣ちゃんの柔らかくて優しい言葉に、気持ちを落ち着けさせられている感じ。不思議といやじゃなかった。

「今、萌絵ちゃんの目の前にダチョウがいるでしょ、よーく見てね。あれに今からなるからね」

 芽衣ちゃんが私の目の前から体を逸らすと、私の目に飛び込んできたのは大きなダチョウ。どこからどう見ても、一羽のダチョウだ。今から、私が、これになる。

「今から私が、萌絵ちゃんを変えてくからね。ちょっとくすぐったいけど、我慢してね」

 芽衣ちゃんはそう言って、手で私の足に触れ始める。マッサージをするように、私の足をぐにぐにともみほぐす。確かにちょっとくすぐったいけど、それよりも、まるで自分の足が粘土みたいに、柔らかくこねられている感じがして、変な感じだ。

 ……いや、粘土みたい、ではない。実際に粘土のように私の足は形が変わり始めていた。さっき目の前で見ていた、樹希ちゃんの変化と一緒だ。私の足が、人間の足が、ダチョウの足に変わっていく。指が二本、真ん中の太い指から生えた鋭い爪。ごわごわした鱗。全部、目の前のダチョウと一緒だ。

 私、本当にダチョウになっちゃうんだ……!?

「さぁ、どんどん変えてくからね」

 芽衣ちゃんの手が、私をゆっくりともんだり、締め付けたりしながら、足先から、ふくらはぎ、太ももと移っていく。その度に、私の脚を鱗が覆って、細くなって、私はどんどん人間じゃなくなっていく。

 次に芽衣ちゃんが私の腕に触れ、ゆっくりと何度も撫でると、私の体から黒い柔らかな羽毛が噴出していく。手の指も長く伸びたかと思うと、瞬く間に羽毛に覆われて、鳥の翼へと変わってしまった。

 そして、お腹、背中、お尻と芽衣ちゃんが触っていく度に、私の体は鳥の羽毛で覆われ、人の形を失って、鳥の形に作り直されていく。私の、私の部分が、どんどん消えていく。

「じゃあ、仕上げに入るからね~」

 芽衣ちゃんの優しい言葉とは裏腹に、芽衣ちゃんの手には力がこもり始める。そして、私の首を両手でぎゅっと締め付ける。なのに、何故か息苦しくならない。そのはずだ、締め付ける度に、私の首自体が細く長く、形が変わっていっているのだから。

「あ、あぁ……!」

「ここからもっと締め付けるから、ちょっとだけ我慢してね」

「っ!?」

 芽衣ちゃんがそう言って、首を絞めつけた瞬間、私の喉の奥までキュッと絞められた感じがした。何か今、大事なものを奪われたような、不思議な感覚だった。

「じゃあ、一旦目を閉じてね」

 そして最後、すっかり首が伸びてしまった私の頭に触れるため芽衣ちゃんもベッドの上に乗ると、私の顔をゆっくりともみ始める。すっかり変わり果てた私の体の中で、唯一残っている私の顔。だけどそれも、形を変えられていく。体に合わせた顔へと、作り変えられてしまう。

 横に平べったいくちばし。大きな目。小さな頭。芽衣ちゃんが優しく、だけど力強く、私の形を整えていく。そして、ついに。

「はい、完成。目を開けて、ゆっくりベッドから降りてみて」

 言われるがまま、私は目を開き、ベッドから降りて、すっと背筋……じゃない、首筋を伸ばしてみる。

 目線が、高い。横を見ると、さっき見上げていたはずのダチョウが、ほぼ同じ目線の高さになっている。

 まさか、まさか本当に……?

 私はふと、このスタジオが鏡張りだったことに気づき、ゆっくりと首を鏡の方に向けていく。

 そして、完全に鏡と向かい合った瞬間。

 目が合ったのは、一羽のダチョウだった。

 私が首をひねれば、鏡の中のダチョウも首をひねる。

 私が翼を広げれば、鏡の中のダチョウも翼を広げる。

 私と同じ動きを、鏡の中のダチョウもする。

 つまり、鏡の中のダチョウは、まぎれもなく私だ。

 つまり、私は、まぎれもなく、ダチョウだ。

 本当に、本当に、人間の女の子だった私が、オスのダチョウに変えられちゃったんだ……!?

「うん、完璧にダチョウになれたね、かわいい」

「――っ!?」

 私は芽衣ちゃんに色々言おうとしたけど、声が出てこない。その時私は、さっき感じた「奪われた大事なもの」が何なのかを理解した。

「ダチョウは声帯無いからね、喋れないよ」

「――!?」

 何か言おうとしても、喉から空気が漏れる音がするだけだった。体も、顔も、声さえも。私の私らしい部分は一切なくなってしまった。今ここには一羽のダチョウが、自分のことを川里 萌絵だと思っている、自分のことを人間の女の子だと思っている、オスのダチョウがいるだけだ。

「おい姉さん、あんまり意地悪するんじゃないよ」

「え、別に意地悪してるわけじゃないよ。ダチョウは喋らないのが普通でしょ?」

「初めての変身で不安なんだからさ、喋れた方がいいだろ」

 そう言って樹希ちゃんが、喋れなくて戸惑ってる私の代わりに、芽衣ちゃんをたしなめてくれた。

 ……あれ?

 私はふと違和感に気づいて、声のした方を振り向く。当然、一羽のかっこいいダチョウがいるだけだ。

 あれ?

 今、樹希ちゃん喋った? ダチョウが、喋った?

「私は喋れるよ、ダチョウだけど」

 ダチョウの口から、聞き慣れた樹希ちゃんの声が聞こえてきて、私は驚いて一歩あとずさりしてしまう。これはこれで、違和感がすごい。

「姉さん、萌絵も喋れるようにしてあげな。初めての変身、普通はちゃんと怖いんだよ」

「えー、そう? まぁ、じゃあ、ちょっと待っててね。萌絵ちゃんもう一度こっち来て、喉出して」

 芽衣ちゃんはベッドの上から私を呼ぶ。言われるがまま私は、慣れないダチョウの体で歩いてベッドの上の芽衣ちゃんのそばまで行き、喉を突き出す。芽衣ちゃんが何度か私の喉を撫でると、急に喉につかえていた何かが取れるような感じがして、そして。

「っ、あ、あー、あ! ひゃべえう! ひゃべ……あえ?」

「あー、口も、舌も違うから、声帯あっても人間みたいに喋るのは難しいんだよ。まぁただ、これは慣れるしかないね。声帯と違って口や舌は、口を開けた時に映り込んじゃうから、都合よく変えるわけにはいかないからね。何度か試していくうちに、すぐ慣れると思うから」

 そう樹希ちゃんの声で喋るダチョウは、すごくかっこよく見えるし、自分がダチョウになったせいか、ダチョウの表情も分かるというか、こうして見ると、全く面影がないはずなのに、顔の凛々しさとかでちゃんと樹希ちゃんだって分かるのがちょっと面白かった。鏡を見て、映るダチョウ姿の自分を見ても、樹希ちゃんと比べると、全く同じダチョウに見えても、実はちょっと小柄だし、顔はちょっと幼い気がするし、足は私の方が細いし、よくよく見れば全然違うし、このダチョウがちゃんと「私がなったダチョウ」という感じがするのも不思議だ。

「せっかくだし、喋る練習がてら、ちょっと話してみるか。どう? ダチョウになった感想は」

「んー、なんか、変な感いがすゆ……鏡見ても、わたひやなくて、ダチョウなんだもん……」

「変だよな。分かる。私も最初そうだったし。こうして今、ずっと普通に人間の姿で接してきた私たち姉妹が、揃ってダチョウの姿で会話してるのも、不思議な光景だろ? でも、こういうのが慣れたら楽しいし、面白くなってくる。これはそういう仕事なんだ。動物だけじゃない、いろんな姿になって、いろんなことを経験する。もしちょっとでも面白いと思ってくれたなら、姉さんの手伝いをしてやってほしい」

 樹希ちゃんの、ダチョウの言葉に、私は心を動かされた。確かに、急に目の前で自分の姉がダチョウになって、自分もダチョウに、しかもオスに変えられて、怖かったのは勿論、戸惑いも大きいけど。でも、今自分がなっているのは、地上最大の鳥、地上最速の鳥。そんな姿になれて、ワクワクしないはずはなかった。時間が経つにつれて、怖いという気持ちよりも、この仕事で、他の姿にも、色々なれるなら、面白いかもしれないという気持ちが、徐々にふつふつと湧いてきた。

「それに……」

 樹希ちゃんは長い首を伸ばして、私の耳元で小声で呟く。

「姉さん、こんな感じだからさ……誰かがサポートしてあげないと、時々やばいんだよ……苦労かけるけど、萌絵なら出来ると思うからさ……」

 私は芽衣ちゃんの方を向く。ニコニコと笑う芽衣ちゃんを見て、「確かに」と心の中で静かに思った。私はそのまま芽衣ちゃんに向かって話しかける。

「わたひでも、お手伝い出来うことがあるなら……ちょっとやってみたいかも。手伝っても、いい?」

「勿論! っていうか、こっちからお願いしてるんだし。OKしてもらえて嬉しいのはこっちだよ!」

 嬉しそうな芽衣ちゃんを見て、私も嬉しくなってきた。なんだかんだ言っても、姉二人のことは好きだし、そのお手伝いが出来る上に、その仕事がこんな楽しいことなら、最高かもしれない。

 私は樹希ちゃんの方を振り向き、見つめあうと、ダチョウ同士で微笑みあった。

 こうして、中学二年生になる春休みのある日。私は突然、川里プロダクション所属の変演俳優として、その一歩を踏み出すことになった。何故私たちが変身出来るのか、ダチョウになる仕事というのがどういう仕事なのか。そして、私はこの後いつまでダチョウの姿でい続けなきゃいけないのか。知りたいことはたくさんあるけど。

 それはまた、別の話。

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この小説を書いた人

宮尾武利

ATRIダイレクター。獣化作家。

「獣化がまだ好きではない人に獣化を好きになってもらうため、獣化を好きな人にもっと獣化を好きになってもらうため」をモットーに、獣化について様々なアプローチを試みている。

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