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デスゲームに参加させられたと思ったら思ってたのと違った件

2023/06/03


とある夏の日、離島の別荘を訪れた女子中学生七人。

しかしそれは、謎(?)のルームマスターが仕掛けた恐ろしい(?)デス(?)ゲームの始まり(?)だった……。

 デスゲーム。その名の通り、自らの生死を懸けた、緊迫のサバイバル。近年は漫画とか小説とか映画とかで、よくその手の設定の作品を見る機会があるけど、結局のところ作り話だから成立するものだと思っていて、それが実在することなんて全く想像していなかった。でも、私が体験したんだ。そのゲームは何の前触れもなく、私に襲い掛かり、私の運命を大きく変えてしまった。

 ……まぁ、あれをデスゲームって呼んでいいのかどうかで言うと、ちょっと悩むところなんだけど……確かにあのゲームによって私の運命変わっちゃったし、滅茶苦茶な目にあったし、とんでもないゲームだったんだけど……あれってデスゲームって呼んで、本当に、いいのかなぁ……。

 まぁ、とりあえず話を進める。事の発端は数年前の夏の日。当時中学生二年生だった私は、クラスメイトや先輩の女友達ら七人で離島にある別荘へと遊びに来ていた。先輩の一人が財閥の令嬢で、その島自体なんと彼女のお父さんが所有するもので、島には彼女の家に仕える大人たちも居住しているので、私たちの親も安心して信頼して送り出してくれたのだ。じゃなきゃ、中学生の女の子だけで外泊なんてできやしないし。

「いやー、さすが金居さんち、やっぱりすごいなーこんな大きな別荘持ってるなんて」

 別荘に着くなり、そう声を上げたのは、私のクラスメイトで親友の永尾(ながお)葵ちゃん。音楽が大好きで自ら中学生バンドも結成しているギター女子だ。

「ここの島には、お父様お母様と毎年訪れますのよ。休みの間、みんな自由に使ってよろしくてよ!」

 まるで漫画のようなお嬢様言葉で話すのは、件の財閥令嬢、金居(かない)美優さんだ。うちの中学の三年生で、生徒会長で、女子バレー部の部長でもある。容姿端麗、文武両道、才色兼備、万能超人、四文字熟語が似合う生徒ナンバーワンだ。ただ、勉強はできるけど、それ以外では結構抜けてるところがあるのも愛嬌だ。

「さっすが、金居ちゃんなのだ! こんなところで生活できるなんて、ドキドキものだぁ!」

 槌谷(つちや)萌さんは、金居さんのクラスメイトで、絵が上手で、ちょっとオタクっぽいところもある先輩だ。金居さんとは一年生の時、好きな漫画が一緒だったことで意気投合したんらしい。

「広いと逆に落ち着かない……かも」

 小さな声でそうつぶやいたのは、伊達(だて)莉子さん。槌谷さんの幼馴染で、よく一緒に行動してるみたい。無口だけど、やさしい人だ。

「しっかし美優ちゃんの別荘、久々やなー。しかもこんな大人数初めてなんと違う? やっぱみんな誘って正解やったな!」

 私にそう言ってきたのは、私のクラスメイトの神楽(かぐら)美羽さん。金居さんとは学年は違うけど、小さいころから幼馴染で、彼女のおかげで私たちも金居さんとよく遊ぶようになり、今回御呼ばれしたのだ。

「私たちも、大人数でお泊りって初めてだから、ちょっと緊張するね……ね、七海ちゃん?」

 ちょっと心配そうに私に声をかけてきたのは、私の幼馴染の青木(あおき)美咲ちゃん。学年一の秀才だ。

「大丈夫だよ、みんないつものメンバーなんだしね。楽しんでいこ!」

そして私、白帆(しらほ)七海。全部で七人の女子中学生による、離島のお泊り会が始まったのだ。……そしてそれが、あのデスゲームの、始まりでもあったんだ……。

 その日島についた私たちは、各自の部屋に荷物を置いて、みんなで晩ごはんを作って、中学生としては夜更かしとなる深夜一時ぐらいまではワイワイしゃべってたものの、次第にみんな旅の疲れで眠たくなってしまい、休みは長いんだからと各々の部屋に戻って、すぐに眠りについた。

 しかし、翌日私たちが目を覚ました時、私たちがいたのは自室のベッドの上ではなかった。

「ここは……!?」

 バチン! という大きな音に驚いて目が覚めると、遥か高い天井にある、巨大で明るい照明が今私たちのいる部屋を照らしていた。突然のまぶしさで視界がはっきりしなかったけど、やがて目が慣れてくると、そこは円柱型の大きな部屋だった。あたりを見渡すと、一緒に旅行に来た面々も、部屋の中にいた。

「何だこれ……床が、鏡張りになってる?」

 なんだか天井だけじゃなくて、周囲がまぶしいなと思ったら、葵ちゃんの言葉の通り床が鏡張りになっていて、光が反射していてまぶしかったのだ。

 しかもそれだけじゃない。よく見ると部屋の真ん中から部屋を七つに分けるように、放射状に透明な壁がそびえており、私たちは全員それぞれ壁で隔てられていたのだ。

「ふっふっふ……ようこそわたくしのフィールドへ……」

 不意に私の左隣にいた金居さんがしゃべり出すと、みんなが彼女の方を振り返った。……金居さん、だよね? 変な仮面をつけてるけど。他、みんないるし。仮面の金居さん(?)は注目が集まったことを確認すると、言葉をつづけた。

「ふっふっふ……怯えることはなくってよ……わたくしはこのゲームルームの主……名はスイソウ……」

「いや金居さんですよね?」

「……わたくしの名前はスイソ」

「いや金居さんですよね?」

「……スイ」

「金居さんですよね?」

「段取りをやらせて! わたくしにも段取りがありますの!」

 ああ、金居さんだ。声と喋り方で気づいてたけど、やっぱり金居さんだ。……っていうか、スイ【ソウ】ね……。私映画好きでいろいろ見てるからなんとなく察したけど(注

「これから皆様には、いくつかのちょっとしたゲームをやってもらいますわ。そして、そのゲームに負けたものは罰ゲーム……大変な目にあっていただきますの……勿論、ここから逃げることなんてできはしません事よ……ゲームを放棄してもリタイヤとみなして罰ゲームを受けてもらいますの……」

 どっちかというと、例のアレよりは、国産の映画に多いパターンに近い気がするけど、金居さん、アイデア特に浮かばなかったのかな。

「美優ちゃんさー、いつも言うてるけど遊びたいなら遊びたいって、普通に言わなあかんで」

「美優じゃありませんわ。スイソウですわ」

「はいはい、美優ちゃんそういうところ徹底すんねんなー」

 金居さんの幼馴染である神楽さんが、ちょっとあきれた感じで溜息をついた。そう、金居さんがわざわざ財閥のお金をかけてこんなものまで用意した以上、もはや私たちにゲームを始める以外選択肢はないのだ。

「しかし、スイ【ソウ】って金居ちゃん、チョイスが攻めてるのだ。うちもビックリなのだ」

「……何のことかしら、わたくしはスイソウ。元ネタとかなくってよ」

 おっと、もう一人いたぞ元ネタわかる人間。槌谷さんもさすがはオタク、ちゃんと押さえてた。

「仕方ないですね、じゃあゲーム始めちゃいましょうよ金居さ」

「スイソウ!」

「……スイソウさん。ゲームのルールをお願いします」

「……わかりましたわ。では最初のゲームを発表しますわ」

 金居さん、もといスイソウがそういうと、背面の壁にモニターが現れて映像が映し出される。その映像に合わせてスイソウが声高に叫んだ。

「ラウンド1……最初に皆さんに遊んでいただくゲームは……【マリ○カート対決】~~~! ですわ!」

 ……?

 ……え?

「え?」

「あ、ゲームってそういう?」

 まさかのゲーム内容に、今回の元ネタに気づいていた私と槌谷さんは透明な壁越しにお互い顔を見合わせて戸惑った。まさか、ゲーム内容まで思いつかなかったとは。いや、というよりは、これはもしかして本気で、金居さんがただゲームをやりたかっただけ……?

「ふっふっふ……ルールは簡単、50ccのキノコカ○プを7人でプレーして、4レース終了後、メンバーの中で最下位になった方に、罰ゲームを受けてもらいますわ……」

 隠す気無いなこの人。

「ま、よくはわからないけど、マリ○カートやればいいんでしょ? じゃあ早速始めようよ」

 得体の知れないデスゲームごっこに付き合わされてるのに、むしろ事態を呑み込んでない葵ちゃんは積極的だった。そして残りのメンバーも渋々話に乗ったけど(メンバー全員ゲーム自体は好きな面々なので)、キャラクター選択中に神楽さんが不穏なことを言い出した。

「あのー、一応先に言うとくけど、美優の罰ゲームって大体ガチ目のやつやから、それはホンマ覚悟しておいた方がええで? あのー、安全だとは思うねんけど、お金かけて割とあり得ないヤバイ罰ゲーム作ってくるから。割とガチで」

 いや神楽さん、親切のつもりなんだろうけど今言うことじゃなくない?

「ふっふっふ……わたくしの罰ゲームは、恐ろしくってよ……果たして誰が餌食となるのかしら……」

 ていうか、スイソウも普通にゲームに参加するのね。いや、本人がやりたくてやってるんだから、そりゃそうなんだけど。スイソウの設定どこに行った。まぁ、本人も楽しそうだし、今はとりあえずマリ○カートをプレイするだけだった。

 という感じで、50㏄のキノコカ○プを7人でプレイしましたわけですけどね、えー、結論から申し上げますと、最下位は私でした。普通に負けた。

「七海ちゃん、こういう時のアイテム運無いもんね……」

 レースは4レースとも槌谷さんがぶっちぎり1位で、葵ちゃん、神楽さん、スイソウが2位から4位争い、そして私含めた残り3人が最下位争いだったけど、うん、美咲ちゃんの言うとおり、アイテム運が無かった。ガチで。

「ふっふっふ……白帆七海さん……あなたのゲームはここで終わりですわ……罰ゲームを執行いたしますわ!」

 神楽さんが忠告するぐらい、ガチ目ヤバイありえない罰ゲームとはいったいどんなものなのだろうか。私が怯えている中、スイソウがそう叫ぶと同時に、私の部屋に水が流れ込み始めた。……いや、これ普通に溺死しちゃう!ヤバイとかじゃそういうレベルじゃない!

「ふっふっふ……ご安心なさって……その水は特別な水……あなたは溺れることも、死ぬこともなくってよ……ただし、人の姿でいることも、できなくってよ!」

 金居さんが何か言ってるけど、パニクってる私には話はほとんど入ってこなかった。水が部屋を満たしていく中、私はもがき続けたけど、そのうち体が言うことをきかなくなっていった。何だろう、体が痺れていくような感じ。自分の体が、自分のものでなくなってしまうような、得体のしれない力に捻じ曲げられていくような、不思議な感覚だった。

「ふっふっふ……始まりましてよ……」

 スイソウがそう言ったものの、私にはすぐには何が始まったのか、事態は呑み込めなかった。だけど、もがいているうちに下半身に妙な違和感を感じて、気になって見てみると、私の下半身はいつの間にか、見慣れた人間の足とはかけ離れた、変わり果てた姿となっていた。

 灰色の皮膚に、平らな尾びれ、それはまさしくサメのものだった。

「――ッ!?」

 あまりの驚きで声にならない叫びを上げそうになったけど、その前に私はもがくのを止めてしまい、思わず水を大量に呑み込んでしまい、私の体は逆に水の中へと完全に呑み込まれてしまった。

 そして、下半身の変化を認識してしまった今、自分の身に何が起きているのか、信じることはできないけど、理解することはできてしまい、体が捻じ曲げられていく感覚が、本当に人間としてのアイデンティティーを捻じ曲げて、別の動物へと作り替えられていってしまっている恐怖を認識してしまい、それが呼び水となって私の体の変化は一気に進んでいった。

 何とかもがこうとして動かしていた手は指が手のひらに吸収されるように消えていき、腕も平べったくなって、胸びれへと変化していく。背中からは背びれが突き出し、体は肥大しながらくびれや首が消えて寸胴な体に変化してしまい、来ていたパジャマはびりびりに破れてただの布切れと化し、私のシルエットは人間のものからかけ離れていった。

「ガハッ!?」

 そしてついに顔まで変化し始める。鼻先は大きく前へと突き出し、口は大きく横に割けて、その口の中の歯は鋭くとがった形へと変わってしまう。そしてふと気づくと、水の中でもがいているはずなのに、息苦しさがなくなっていることに気づく。そして、自分の首……なのか胸なのか、よくわからないけど、自然と呼吸に似た何かができていることに気づく。

「ふっふっふ……終わりましたわね……かわいらしい姿でしてよ、白帆さん」

 かわいらしい姿? こんなギザギザの歯と、寸胴な体の生き物が? 私はスイソウの言葉に戸惑いながらも、その実自分の今の姿をしっかり確認することが出来ず、自分がどうなってしまったのか分からず、困っていた。だけど、ふと一瞬冷静になると、床がまぶしく輝いていることに気づいた。

 あぁ……そうか、このためか。このために、床が鏡張りだったのか。

「ふっふっふ……そうですわ、白帆さん。ご自身の姿をご覧になって……ご自覚なさって。自分が何になってしまったのかを」

 スイソウの言葉通り、私は渋々、鏡に映る自分の姿を確認する。……わかっていた、分かっていたけど、いざ目の当たりにすると、とても信じられない感覚だった。いつもなら、鏡に映る私の姿は、当たり前のことを言うけれど、私の姿なのだ。だけど、今鏡に映っているのは、私の知る私の姿ではなく……鋭い牙と、いくつものひれをもつ、大きな大きなサメの姿だったのだ。

 私が体を動かせば、サメも体を動かす。手を動かしたつもりが、胸びれが動く。口を開けば、鋭い牙が映る。

 ……ショックだ。本当の、本当に、このサメは、私なのだ。私の面影なんてどこにもないし、信じられないけど、信じたくないけど、私は、サメになってしまったんだ。

 一匹の魚になってしまったんだ。

「ふっふっふ……新しい姿はどうかしら白帆さん……いえ、ホオジロザメのナナミちゃん……とってもとってもかわいらしくてよ」

 仮面で表情はわからないけど、スイソウはたぶん恍惚の笑みを浮かべているのだろう。変わった先輩だとは思ってたけど、よもやこんなことをする人だったとは。文句を言いたかったけれど、ホオジロザメとなってしまった私には言葉を話すこともできず、鰭となってしまった手足では身振り手振りをすることさえかなわず、ただただ水の中を漂うだけだった。

 そんな私を、メンバーのみんなが見ている。なんだろう、すごく恥ずかしい。……いや考えてみれば今の私は一糸まとわぬ姿なんだから恥ずかしいと言えば恥ずかしいんだけど、そういう恥ずかしさじゃなくて……なんて言えばいいんだろう。経験したことのない種類の恥ずかしさ。あるいは、惨めさ、に近いのかもしれない。人間でなくなった私の姿を見られることが、この不思議な感情を湧き立てるのかもしれない。

「うわー、美優ちゃんいつにも増してえげつないわー」

「スイソウ! わたくしは美優ではなくスイソウですわ!」

 目の前で人間がサメへと変化する。そんなありえない光景に言葉を失っている他のメンバーをよそに、神楽さんは冷静に、だけどさすがにちょっと苦笑いしながら私のことを見つめていた。

「そんな……七海ちゃんがサメに……!? 元に、元には戻れるんですか!?」

 美咲ちゃんは涙目を浮かべながらスイソウへと問いかける。スイソウは勿体ぶるように首をひねりながら、楽しげに答えようとする。

「もし……もし、戻れないって言ったら……どうす」

「いや戻れるに決まっとるやん、いじわる言うたんなや。戻れへんかったら、美優が自分でゲームに参加するわけないやろ」

「わたくしはスイソウですわ!」

 緊迫した雰囲気を崩すように、神楽さんとスイソウのやり取りが徐々に場を和ませていく。

「ようは、ゲームに負ければサメに変えられる。変えられないためにはゲームで勝てばいい。そういうことでしょ? シンプルでいいね。さぁ次のゲームやろうよ!」

 そう言って早速二回戦を要求したのは葵ちゃんだった。いや、ポジティブな子だし、そういうところ本当に好きなんだけど、ちょっとは戸惑おうよ。親友、サメになってるんだけど。

「ふっふっふ……積極的な子は嫌いでなくてよ……」

 あと今更だけど、スイソウのその笑い方のキャラ付けは何なんだろう。何をどう影響受けてキャラづくりすれば、スイ【ソウ】が、そういう笑い方のキャラになるんだろう。

「ふっふっふ……では、二回戦を開始いたしますわ!」

「どんなゲームでも、私は負けない!」

「わ、私も、サメになりたくない……!」

「ゲームでなら、うちが最強なのだー!」

「みんなやる気やなぁ。白帆さんには悪いけど、罰ゲームやししばらくその姿で我慢しててなー」

「勝つ……かも」

 負けるとサメに変えられてしまう。そのあり得ない罰ゲームに、それまで消極的だった他のメンバーもやる気を出し始めた。というか、伊達さんの声を久々に聴いた。ゲーム始まってから一言もしゃべってなかったから存在感無くて忘れかけてた。本当に無口だなこの人。

「ふっふっふ……では、二回戦のゲームを発表いたしますわ……次のゲームは、【スマ○シュブラザーズ対決】~~~ですわ!」

 そして選ぶゲームは本当に普通だな、根は本当にみんなでワイワイ遊びたいだけだなこの人。

 そうしてみんなでゲームを始める中、私は何もできずただゆらゆらと自分の部屋……というより水槽の中を遊泳するしかできなかった。目線を下に落とせば視界に入る鏡が、現実を突き付けてくるからなるべく見ないようにしていた。広く感じた部屋も、水が満たされて、体が大きくなった今となっては狭い水槽でしかなかった。

 ……水槽だから、スイソウ。

 いや、やめやめ。考えるのよそう。金居さんのネーミングセンスについて考えるのはよそう。

「ふっふっふ……決着がつきましてよ!」

 私がゆらゆらしてる間に、対戦は終了し、次の敗者が決まったようだ。

「そんな、私……サメになりたくないです……!」

 サメに変身することに一番怯えていた美咲ちゃんは、ゲーム中もうまく戦えず、あっさり負けてしまったようだ。まぁ……普通そうだよね。何か妙にメンタルタフネスなメンバーが多すぎるせいで私の感覚が間違ってるのかと思ったけど、やっぱり美咲ちゃんはまともでよかった。……けど、そんな美咲ちゃんも……。

「ふっふっふ……怯えるあなたに罰ゲームを執行するのは心が痛みますわ……ですが、ここで執行しなければ示しがつかなくてよ……執行いたしますわ!」

「いやぁ!」

 美咲ちゃんの抵抗も空しく、彼女の部屋に水が大量に流れ込んでいく。私の時と同じく、美咲ちゃんは最初抵抗していたけど、やがて体の動きが鈍っていく。ああ、私の時と同じだ。だけど、私の変化は自分で見ることが出来なかったからわからなかったけど、今度は最初からその変化を見ることになるわけで。

 美咲ちゃんの足は徐々に体の中に消えていき、代わりに縦に平べったい尾びれを持った尻尾が生えていく。体は流線形のフォルムに変化していき、肌は色が変わりサメ肌へと変わっていく。メンバーの中で一番身長が小さくて、かわいらしい姿だった美咲ちゃんの姿は徐々に変わり果てていき、やがて美咲ちゃんがいた部屋は、一匹のサメが力なく漂う水槽と化した。

「ふっふっふ……新しい姿になったのはどんな気分かしら、青木さん……いえ、アオザメのミサキちゃん。よくお似合いでしてよ」

 美咲ちゃんが変身したのは、私とは別の種類のサメだった。私よりもより細長く、目もくりくりとした、アオザメの姿だった。

『大丈夫!? 美咲ちゃん!』

 変身して動かない美咲ちゃん――だったアオザメを心配して、透明な壁越しに私は思わず叫んだ……つもりだったけど、私サメなんだから、声なんか出せるはずはなか……。

『その声……七海ちゃん……!?』

 って、美咲ちゃんの声が聞こえる!? え、何だこれ。サメって会話できるんだっけ? テレパシーか何か? でも、よかった。ちゃんと意識を取り戻したみたい。

『動かなかったから、心配しちゃったよ……大丈夫?』

『……大丈夫じゃないよ……サメの姿になっちゃうなんて……それに変な感じ……目の前のホホジロザメが、七海ちゃんだなんて……私が、アオザメだなんて……』

 私自身もショックだったけど、美咲ちゃんはそれ以上にサメになっちゃったことにショックを受けている様子だった。いや、そりゃそうだよね。自分が人間以外の生物になっちゃうことなんて、生きている中で考えたことなんてなかった。しかも、サメだなんて。もっとかわいい動物ならともかく、哺乳類ならともかく、魚類だからね。手も足も無い、勝手の違う生き物だからね。自分の姿とかけ離れた姿になることは、そしてそれを鏡で見ることは、結構堪えるものだよやっぱり。私も、目の前のアオザメが美咲ちゃんだなんて、あの変化を目の当たりにしても、信じられない気持ちだもん。

『もしいやなら、鏡見ない方がいいよ?』

『うん……そうする……しばらくこの姿か……戻れる……って言ってたよね……?』

『神楽さんは言ってたね』

『そうだよね……戻れるんだよね……?』

 どうも、もし戻れなかったら……とか想像してるのだろうか。確かに、もし手違いで戻れなかったらどうなっちゃうんだろう。サメの姿のまま水族館に売られでもしたら? いや、まだいい方かもしれない。もしこの姿のまま大海原に放流されてしまったらどうなるだろう。今の私たちはただのサメだ。こんな姿を誰かが見ても、実は人間だってわかってもらうことなんてできはしない。誰にも知られず気づかれず、広い海の中を生きていかなければならないのだ。そんなこと……できるわけない。

 あーやめようやめよう。そういうオチの付け方はしないって信じよう。

「ふっふっふ……罪悪感ですわ」

「いや、そらそうやろ。嫌がる相手サメに変えてもうたら、もうただのいじめやからな」

 神楽さんの的確なツッコミがさえわたる。そして、スイソウにちゃんと良心があって安心した。いやまぁ、罪悪感覚えるならやるなよって話だけど。

「ふっふっふ……私も鬼ではなくてよ……なので、こうしますわ」

 スイソウがパチン、と指を鳴らすと、私と美咲ちゃんの間を隔てていた透明な壁が床へと沈んでいき、二つの水槽がつながり一つのより大きい水槽となった。

「ふっふっふ、これで寂しくなくてよ。ナナミちゃん、ミサキちゃん。サメ同士仲良くなさい」

「そういうことちゃうやろ」

「ふっふっふ……しかし私ももう引けませんわ……三回戦は【ボ○バーマン対決】~~~ですわ!」

 主催者として意地があるのか、強引に次のゲームへと進めたスイソウだったけど。美咲ちゃんに対する罪悪感が作用したのかどうかわからないけど、終始動きは精彩を欠き、そして。

「ふっふっふ……ふっふっふっふっふ……負けですわ……」

「はい、というわけでスタッフさん、美優ちゃんの水槽に水、お願いしまーす!」

「美優じゃなくスイソウですわーーー!」

 そんなスイソウの叫び声は流れ込む水の音によってかき消されていった。流れ込む水の中でスイソウ、もとい金居さんの姿は徐々に変化していくけど、その様子は私や美咲ちゃんの時とはちょっと違うものだった。

 肌がサメ肌に変化し、手足がひれに変わってしまうのは同じだったけど、私たちの時と違って金居さんの体は平べったく変化し、泳ぐというよりも水底を這うことに向いてる姿へと変化していった。さらに特徴的だったのは顔の変化だった。中学生とは思えないくらい美人で整っていた金居さんの顔は、鼻先が私たちの時以上にさらに前へと大きく突き出していき、その周囲にはとげとげが生え並んでいった。

 金居さん……だった一匹のサメが水底でうずくまっている中、再び透明な壁が取り払われて水槽がつながったので、私と美咲ちゃん……つまりホオジロザメとアオザメは仲間に加わった相手のところに向かい、ちょっと意地悪な感じで、例の言葉をかけてみた。

『どんなお気持ちですか、金居さん……いえ、ノコギリザメのミユちゃん』

『うう……自信がありましたのに……』

 負けてしまったことが悔しいのか、ノコギリザメはうなだれたままだった。私とアオザメは、顔を見合わせた後、小さくうなずいた。そしてアオザメがノコギリザメに問いかける。

『金居さん……その前に言うことありませんか?』

『……』

『金居さん?』

『ごめんなさい……普段体験できないような罰ゲームの方が、ゲームがより盛り上がると思いましたの……』

『変な罰ゲームなんて考えなくても、楽しく遊ぶことなんてできますよ……それに何でサメなんですか?』

『サメかわいいし……サメならみんな、嫌がらないと思いましたの……』

 あー。これあれかー。

 私たちを変えた後に言ってた「かわいい」とか「お似合い」とか、皮肉とか言葉責めじゃなくて、ガチで出てきた言葉だなこりゃ。うーん、悪気が無いだけに性質が悪い。

『……簡単に許すつもりはないですけど……金居さんが悪気があったわけじゃないことが分かったので、怒りは……収めます。許すつもりは、ないですけど』

 そう言うアオザメの表情は、笑ってなくてちょっと怖かった。いや、サメだから表情なんてない……はずなんだけど、何だろう、自分がサメの姿に慣れてきて、アオザメとノコギリザメ姿の二人にも慣れてきて、だんだんこの姿にも愛嬌が湧いてきた……気がしてきた。いや、どうだろう? サメってもしかして、本当にかわいいのかな?

「えーMCがサメになってもうたら、こっからどないすんねんって話やねんけど……と思ったら、なんか画面に出とるしな」

 進行していたスイソウ、もとい金居さんがこのありさまなので、代わりに神楽さんが進行し始めた。ディスプレイには確かに次のゲームが映っていた。

「えー、これが最終対決! 【ス○リートファイター】対決~~~! 4人でトーナメント形式で対戦し、負けたらサメに変身! 最後まで勝ち残った一人がサメ回避! 分かりやすい!」

 そうして水槽の中から三匹のサメが見守る中、ついに最後のゲームがスタートした。準決勝、最初に対戦した葵ちゃんと槌谷さんの対決は槌谷さんが、神楽さんと伊達さんの対決は神楽さんがそれぞれ勝利し、負けた二人の部屋には水が流れ込んだ。

「勝てると思ったのにー!」

「サメも悪くない……かも」

 そして二人の部屋に水が満ち溢れるころには、二匹のサメが泳ぎ回るようになっていた。葵ちゃんのいた水槽には尾びれの長いオナガザメが、伊達さんのいた部屋には体の太いイタチザメが泳いでいた。

『やっぱり槌谷さんゲーム強いよなー。私も得意だから勝てたと思ったけど、全然太刀打ちできなかったなー』

『もえちんと普段一緒にやってたから、勝てると思ったけど……神楽さんも相当強い……かも』

 オナガザメとイタチザメの水槽も透明な壁が取り払われ、私たちのいる水槽とつながり、ついに部屋全体の七分の五が巨大な水槽と化した。いや、それにしても二匹とも暢気だなー。元々の性格でもあるんだろうけど、先に三回も人間がサメに変化する様子を目の当たりにして、恐怖が緩んでいたのかもしれない。

「じゃあ槌谷さん、これが正真正銘最後の戦いですけど、どっちがサメになっても言いっこなしってことで構いませんね?」

「もちろんなのだ! うちもゲーマーとして、負けられないのだ!」

 ついに始まった決勝戦。ゲームの上手い二人の対決はまるでプロの試合を見てるような白熱した展開となり、互角の戦いだったけど、最後の最後に相手の手を読み切り勝利をつかみ取ったのは。

「ま、ま、負けたのだー! このうちが、後輩に負けたのだー!」

「危なかったー。ホンマ普段から腕鍛えててよかったって思いましたわ。それじゃあ、槌谷さんの水槽に……水、いっちゃってくださーい!」

 ついに最後の敗者である、槌谷さんの水槽に水が注がれていき、槌谷さんの姿も人間のものからサメのものへと変化していく。ただ、そのシルエットはまた、私たちの誰とも異なり特徴的なものだった。顔は目が飛び出すように変化し、特徴的な顔つきとなる。槌谷さんのいた水槽に泳いでいたのは、金づちのような顔を持つシュモクザメだった。

『うう、視界がなんか慣れないのだー。でも、サメ姿もドキドキものだぁ!』

『それにしても、神楽さんゲーム強いですね。全然知りませんでした』

『……実はわたくしに付き合わせてこの手のゲームをやってるうちに、腕が上達したようですの』

 ああ……そういう……。それはそれで、神楽さんにちょっと同情する私だった。

 こうしてすべてのゲームで勝利し、無事サメ化を回避した神楽さんだった……けど。その後発したのは驚きの言葉だった。

「まぁ、私一人残っても、しゃあないんで、スタッフさん、私のところにも水をお願いしまーす!」

 なんと自ら申し出て部屋に水を流し込んだのだ。流れ込む水の中で神楽さんの体は変化していく。手足はヒレに変わり、その体は細く長く伸びていく。水が完全に満ちて透明な壁が取り払われると、そこから出てきたのは私たちの誰よりも長い体を持つカグラザメだった。

『神楽さん、どうして自ら……?』

『いやー、もう私美優に付き合っていろいろ体験してきたから、そのうちやらんで勝ち逃げしたらもったいない思うようになってもうて。勝っても負けても罰ゲーム全部経験するようにしてんねん』

 ……いやどういう精神状況それ? サメになるのが怖くないの?

『これまでも氷漬けになったり、特殊な薬でぺったんこになったこともあったし、動ける分大分罰ゲームとしては楽しい方かな思うし』

『なんてことやってきてるんですか金居さん……』

『だって……面白いと思いましたの……』

『まぁ、人間が他の動物になるなんてこと、普通経験できないし、せっかく広い水槽になったんだから、存分に泳ぎ回ろうぜ!』

 そう言ってオナガザメはこの広い水槽の中を泳ぎ回り始めた。すると、私の横にいたアオザメも今までの不安そうな表情が大分和らいで、ぼそりとつぶやいた。

『そう、かもね……サメは、好きじゃないけど……水の中を自由に泳ぎ回るなんてこと、普通出来ないもんね……』

『美咲ちゃん……、じゃあ、一緒に泳ぐ?』

『……うん、七海ちゃんが一緒なら……葵ちゃんもいるし……』

『ほら二人とも! 一緒に泳ごうよ!』

 そうして、ホオジロザメと、アオザメと、オナガザメは広い水槽の中を泳ぎ回り始めた。

 女子中学生七人が閉じ込められていた部屋は、完全に水が満ち、七匹のサメが泳ぎ回る水槽となったのだった。

 こうして私たちの参加したデスゲーム……もといシャークゲームは、全員が罰ゲームを受けて幕を下ろしたのだった(『これが本当の【さめがめ】ですわ』と言ったノコギリザメのことは一回どついた)。

 ……だけど、大変だったのはこの後で、私たち七人は無事元には戻れるんだけど、戻るまで丸二日間この姿のままで過ごさなきゃいけなくて、慣れない生魚をそのまま食べなきゃいけなかったり、しかもサメになった私たち七人を金居さんの財閥が雇った人たちが面倒見てくれたわけだけど、当然私たちが元人間だって知ったうえで世話をしてくれたわけで、それはそれで結構恥ずかしくて……。

 水中を自由に泳ぎ回る体験もできたけど、まさか水族館の魚の気分も味わう羽目になるとは思わなかった。でも、それさえも、そして自分が人間じゃなくなってしまう恐怖も、今となってはいい思い出だったと思えるわけで。不思議なものだなぁと思う。

 え? 運命が変わったって、どう変わったかって?

 それはその……この体験をした私は、今言った通り不思議とこの体験で感じた恐怖を、楽しさが上回って、忘れられなくって……それからは神楽さんらと共に金居さんの主催するゲームに頻繁に参加するようになったの。そしてそのたび、あんな姿、こんな姿、そんな姿に変えられちゃうわけなんだけど……ほら、新しく参加する子のことを、誰かがちゃんとフォローしてあげなきゃいけないしね。恐怖と楽しさ、両方感じた私なら、そこをちゃんとフォローできると思ってるし。

 そして今年の夏もまた。

「ねぇ、この日って空いてる? 私の友達の別荘でお泊りしながら、ゲーム大会やるんだけど、もしよかったら君も来ない?」

 また新たな、デスゲームが開催される。

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この小説を書いた人

宮尾武利

ATRIダイレクター。獣化作家。

「獣化がまだ好きではない人に獣化を好きになってもらうため、獣化を好きな人にもっと獣化を好きになってもらうため」をモットーに、獣化について様々なアプローチを試みている。

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